ウクライナ侵攻、ロシアはどこまで〈悪〉なのか【佐藤健志】
佐藤健志の「令和の真相」41
◆この侵攻をどう捉えるか
ならば今回の侵攻、どのような構図で捉えるのが適切か。
攻め込んだのがどちらの側かは揺るがない以上、「ロシアが悪い」という見解が台頭するのは必然でしょう。
しかも大規模な軍事侵攻に人道危機はつきもの。
ウクライナから国外に逃れた避難民は、5月半ばの時点で600万人を超えました。
祖国に戻った人も少なくないようですが、だから構わないという話にはなりません。
ロシア軍がキーウ周辺から撤退した後は、民間人の殺害や拷問など、国際法に反した残虐行為、いわゆる戦争犯罪がこれに加わります。
後者については、情報戦、つまりプロバガンダによる誇張や虚偽が含まれている可能性もあるでしょう。
とはいえ、ロシアが非難をまぬかれるわけではありません。
侵攻に踏み切ったりしなければ、情報戦をしかけられることもなかったのです。
ウクライナ軍とて必ずしも人道を尊重していないかも知れませんが、これについても同じこと。
今回のようなケースでは、喧嘩両成敗はまず認められません。
ロシアはいかんせん分が悪いのであります。
ウクライナをナチになぞらえる主張も、5月1日、セルゲイ・ラブロフ外相が「ヒトラーもまたユダヤ系の出自を持っていた」などと発言するにいたって、すっかりミソをつけてしまいました。
ゼレンスキーがユダヤ系であることを意識したのでしょうが、ラブロフ自身「私の記憶が正しければ、いや間違っているかも知れないが」と前置きしたことがすべてを語っている。
意地を張ったあげくの自滅的なトンデモ発言、そう見なされても抗弁できた義理ではありません。
はたせるかな、プーチンは5月5日、イスラエルのナフタリ・ベネット首相に謝罪するハメとなりました。
た・だ・し。
「攻め込んできて、人道危機を引き起こしたのだからロシア=悪」の図式で、すべてを割り切ることもできません。
2014年いらい、ドンバス地方が内戦状態にあったことを別としても(当然、ここでも人道危機は生じていたでしょう)、ウクライナのナショナリズムは、アメリカやEUの覇権戦略と密接に結びついているのです。
◆戦略的パートナーシップの内容
現に2021年11月、ウクライナはアメリカと「戦略的パートナーシップ憲章」を取り交わしました。
これは2008年12月に取り交わされた旧憲章をバージョンアップさせたもの。
両国が戦略的パートナーだという宣言にいたっては、1996年9月、アル・ゴア副大統領(アメリカ)とレオニード・クチマ大統領(ウクライナ)によってなされています。
このときの大統領は民主党のビル・クリントンでしたが、旧憲章を取り交わしたときにホワイトハウスにいたのは共和党のジョージ・W・ブッシュ。
今回は民主党のジョー・バイデンですから、過去四半世紀、アメリカは超党派でウクライナを後押ししてきたのです。
で、憲章前文の第4項はこう宣言する。
【(米・ウクライナ両国は)ロシアの継続的な攻勢に対抗し、ウクライナの主権、独立、および国際的に認められた国境に基づく領土の一体性の維持について、断固として取り組むことを強調する。ここで言う領土とは、クリミアおよびウクライナの領海を含むものとする。ロシアの攻勢は、この地域の平和と安定を脅かすだけでなく、世界的な国際秩序のルールを損なうものである】
2014年、ロシアはクリミアに侵攻、同地域の併合を宣言したものの、それを決して認めないという次第。
憲章の第2節第1項では、ドンバス地方の内戦についても「ロシアによって引き起こされたもの」と規定したうえで、ロシアがウクライナにたいし、一貫して悪意ある振る舞いを見せていると批判しています。
つづく第2節第5項にはこんな一節が。
【NATOの高次機会パートナーとしての地位を最大限に活用し、NATOとの連携能力を高めようとするウクライナの努力を、アメリカは支援するものである】
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【佐藤健志氏によるオンライン読書会のお知らせ】
ウクライナ侵攻と関連して、Zoomによるオンライン読書会を下記の通り開催します。
「強兵なくして主権なし〜ロシアの視点を理解して、日本が取るべき戦略をつかめ」
◆開催日時:2022年6月18日(土)14:00〜16:00
講義 14:00〜15:30
Q&A 15:40〜16:00
※質問多数の場合、Q&Aコーナーの時間を延長します。また参加者全員に録画アーカイブを配信しますので、リアルタイムでご参加いただけない方も安心してお申し込み下さい。
解説書籍:『「帝国」ロシアの地政学』(小泉悠、東京堂出版、2019年)
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